「工程表を作ったのに、変更が入るたびに書き直しで追いつかない」
「そもそもバーチャートとガントチャート、どちらを使えばいいのかわからない」
製造や工事の現場で工程管理を任されると、多くの方がこうした壁に突き当たります。バーチャート工程表は、専門知識がなくても短時間で作成できる、広く使われている工程表のひとつです。その一方で、作業同士のつながりや人・設備の配分までは表現できないという性質もあり、使い方を誤ると「作ったのに現場が動かない工程表」になってしまいます。
この記事では、バーチャート工程表の基本と他の工程表との違い、実務で使える書き方4ステップ、エクセルでの作成方法、そして製造業で運用する際のポイントまでを整理して解説します。
バーチャート工程表とは、縦軸に作業項目、横軸に日程(日・週・月)を置き、各作業の開始から終了までの期間を横棒(バー)で示した工程表です。棒グラフ形式で表現するため「棒グラフ工程表」と呼ばれることもあります。
記入する情報が少なく、構造も単純なため、工程管理の経験が浅い方でも作成できる点が最大の特徴です。作成した工程表は、社内の担当者だけでなく、協力会社や取引先など専門知識のない相手にも直感的に伝わりやすくなります。
たとえば、5日間で進める部品製造の工程は、次のように表せます。
| 作業項目 | 4/1 | 4/2 | 4/3 | 4/4 | 4/5 |
|---|---|---|---|---|---|
| 材料手配 | ■ | ■ | |||
| 部品加工 | ■ | ■ | ■ | ||
| 検査・出荷 | ■ | ■ |
バーチャート工程表を構成する要素は、次の3つだけです。
作業が並行する期間はバーが縦に重なるため、「いま何と何が同時に動いているのか」「次に控えている作業は何か」を一目で確認できます。
バーチャート工程表は、納期を基準にスケジュールを組み立てる業種と相性が良い形式です。製造業では部品加工や組立の日程計画、建設業では工期の管理といった用途で使われています。
特別なソフトウェアがなくても、紙やエクセルで作成できる手軽さも普及の理由です。工程が比較的単線的に進む案件、期間が短い案件、関係者への説明が主目的の案件では、バーチャート工程表だけで十分に機能する場面が多くあります。
バーチャート工程表とガントチャートは、どちらも作業を横棒で表すため、実務上ほぼ同じ意味で使われることがあります。一般的なプロジェクト管理では、横軸に時間を置く棒グラフ形式そのものをガントチャートと呼ぶことも少なくありません。
一方、施工管理分野の教材などでは「バーチャートは日程、ガントチャートは進捗率を重視する」と区別される場合があります。本記事では便宜上、日程と所要期間の共有を中心とするものをバーチャート工程表、進捗率・担当者・作業間の依存関係まで管理するものをガントチャート工程表として整理します。定義は業界や利用するツールによって異なるため、打ち合わせでは呼称だけでなく、管理したい項目まで確認することが大切です。
工程表には複数の種類があり、それぞれ得意な領域が異なります。ここでは、バーチャート工程表との違いを判断するために要点を整理します。工程管理全体の考え方や各工程表の詳しい選び方は、製造業における工程管理とは?5つの工程表と失敗しないシステム選定法も参考にしてください。
| 種類 | 縦軸/横軸 | 得意なこと | 苦手なこと |
|---|---|---|---|
| バーチャート工程表 | 作業項目/時間 | 縦軸に作業項目、横軸に時間をとり、棒状で期間を表す | シンプルで作成しやすい反面、タスク間の依存関係までは把握しにくい場合がある |
| ガントチャート工程表 | 作業項目/日程・進捗率 | 作業ごとの「進捗率(%)」や「担当者」、「作業間の依存関係(つながり)」などを盛り込み、プロジェクト全体の進捗度合いを多角的に管理 | 設定項目が多いと作成・更新に手間がかかる |
| グラフ式工程表 | 出来高比率/工期 | 進捗の傾向と関連性の把握 | 慣れないと読み取りにくい |
| 出来高累計曲線(工程管理曲線) | 累計出来高/工期 | 全体の進捗が計画線に対して遅れているかの判断 | 個々の作業の状況がわからない |
| ネットワーク工程表(アローダイアグラム) | ー(ノードと矢印で表現) | 依存関係とクリティカルパスの特定 | 作成・理解に専門知識が必要 |
前述のとおり、両者は縦軸に作業項目、横軸に時間を置く点が共通しており、呼称だけで厳密に区別することはできません。実務では、管理したい情報から選ぶと迷いにくくなります。
詳細な進捗管理やリソースの割り振りまで行う場合は、依存関係を設定できるツールの利用も検討しましょう。
ネットワーク工程表は、作業を「〇(イベント)」と「→(アクティビティ)」で結び、作業の順序と依存関係を表現する工程表です。時間軸は明示されない代わりに、クリティカルパス(絶対に遅らせてはならない一連の作業経路)を特定できる点が最大の強みです。
作業が複雑に絡み合う大規模な案件では、遅れが全体にどう波及するかを分析できるネットワーク工程表が力を発揮します。一方で作成には専門知識が必要で、関係者全員が読み解けるとは限らないため、現場への共有用としては扱いにくい面があります。
グラフ式工程表は、縦軸に出来高比率、横軸に工期を取り、進捗を折れ線で表す形式です。各作業の進み具合と全体の傾向を同時に確認できます。
出来高累計曲線(工程管理曲線、Sカーブ)は、累計の出来高を曲線で表し、計画線に対して進捗が遅れていないかを判断するための工程表です。全体の進み具合をつかむのには向いていますが、個々の作業の状況はわかりません。
選定の目安は次のとおりです。
実務では1種類に絞る必要はありません。全体の日程はバーチャートで共有し、重要な案件だけネットワーク工程表で依存関係を確認するなど、目的に応じて併用する運用が現実的です。
バーチャート工程表は、作業名と日付を記入するだけで形になります。依存関係や進捗率の設定が不要なため、考えるべき要素が少なく、はじめて工程表を作る方でも取りかかりやすいことが利点です。紙とペン、あるいはエクセルがあれば作成できるため、新しいツールの導入を待たずに始められます。
横棒の位置と長さで期間を示すため、「どの作業がいつ始まり、何日かかるのか」が視覚的に伝わります。掲示板に貼り出す資料や、朝礼で配る資料としても読み取りやすく、認識のズレが起こりにくくなります。
工程の詳細をすべて開示する必要がない場面でも、バーチャート工程表なら大枠のタイムラインだけを示せます。お客様に「この工程は今月末までに完了します」と口頭で伝えるより、工程表を見せながら説明したほうが納得を得やすく、日程調整の相談もスムーズに進みやすくなります。
シンプルさの裏返しとして、バーチャート工程表には表現できない情報があります。導入前に把握しておきましょう。
バーチャート工程表は各作業の期間を個別に並べているだけなので、「この加工が終わらないと次の組立に進めない」といった前後関係を明示できません。
そのため、ある作業が遅れたときに、どの作業へ影響が及ぶのかを工程表から読み取れません。結果としてクリティカルパスも特定できず、本来は最優先で手を打つべき作業と、多少の遅れが許容される作業の区別がつきにくくなります。人員や設備を集中投下すべき判断が遅れれば、防げたはずの納期遅れにつながることもあります。
バーチャート工程表は日程を示すものであり、「誰が、どの設備で、どれだけの時間を使うか」までは管理できません。特定の担当者や特定の機械にだけ作業が集中していても、工程表を見るだけでは気づけません。
負荷の偏りを把握するには、別途リソースの管理表を用意するか、工程管理システムの活用を検討する必要があります。
バーチャート工程表には作業同士の連動性がありません。そのため、ひとつの工程が数日後ろにずれただけでも、影響を受ける後続作業のバーを一本ずつ手作業で引き直す必要があります。
修正漏れが起きれば工程表そのものの信頼性が失われるため、確認作業も欠かせません。本来は品質管理や現場改善に充てるべき時間が、工程表の書き直しに奪われてしまう状況は、多くの現場で起きています。
作業項目が数十から数百に及ぶ案件では、工程表が極端に縦長になり、1枚に収まらなくなります。全体を把握するためにスクロールや紙の貼り合わせが必要になり、かえって見づらくなることがあります。
紙やエクセルで運用していると、更新した工程表が全員に行き渡らず、複数のバージョンが現場に混在しがちです。「どれが最新か」を作成者本人しか把握できない状態は、工程管理の属人化を招きます。担当者が不在のときに誰も判断できない体制は、リスクとして認識しておく必要があります。
シンプルな工程表とはいえ、いきなり書き始めると精度の低いものになりがちです。次の手順で組み立てましょう。
まず、着手日から納期までの全体期間を確定し、そのなかに大きな区切り(フェーズ)を置きます。製造であれば「材料手配→部品加工→組立→検査→出荷」といった単位です。全体の枠を先に決めることで、後工程の日数が足りなくなる事態を防ぎやすくなります。
次に、完了までに必要な作業をすべてリストアップします。大きな作業は、担当者が1人で完結できる粒度まで分解します。この考え方はWBS(Work Breakdown Structure:作業分解構成図)と呼ばれ、抜け漏れを防ぐ基本の手法です。
この段階での抜け漏れは、後工程で工程表を作り直す原因になります。材料の入荷待ち、外注工程、検査、段取り替えといった「作業のあいだに挟まる時間」も忘れずに書き出しましょう。
洗い出した各作業に、必要な日数と担当者・使用設備を割り当てます。日数は勘に頼らず、過去の類似案件の実績を参考にすると精度が上がります。
このとき、予定を詰め込みすぎないことが重要です。トラブルや手直しは一定の確率で発生するため、要所に余裕日(バッファ)を織り込んでおくと、小さな遅れが全体に波及しにくくなります。
決めた内容をもとに、縦軸へ作業項目、横軸へ日付を配置し、開始日から終了日まで横棒を引きます。節目となる日程にはマイルストーンを設定しておくと、遅れの判断がしやすくなります。
工程表は作った時点で完成ではありません。実績を記入し、予定とのズレを定期的に確認して更新する運用まで含めて、はじめて工程管理として機能します。
工程の並べ方には、次の3つの考え方があります。
納期が決まっている受注案件では逆算法が基本になり、ボトルネック設備がある場合は重点法との組み合わせが有効です。
日程をぎりぎりに設定すると、トラブルが起きた際にリカバリーできず、品質の低下や残業の増加を招きやすくなります。適切な余裕があれば、心理的な余裕も生まれ、確認漏れなどのミスを防ぎやすくなります。
バーチャート工程表で複数案件を俯瞰することもできます。ただし、各案件の細かな作業まで1枚に詰め込むと行数が増え、視認性が落ちやすくなります。案件ごとの詳細工程表と、主要工程・納期だけを示す横断工程表を分けると管理しやすくなります。人員や設備の負荷まで案件横断で把握したい場合は、リソース管理表や工程管理システムとの併用を検討しましょう。
工程は必ず変わるものです。セルの結合を多用したり、複雑な書式を組んだりすると、修正のたびに崩れて手間が増えます。日付を変えれば表示も追従する構造にしておくと、更新の負担を抑えやすくなります。
工程表を作成する人は1人でも、確認する人は現場に関わる全員です。作成後は上長の確認を経て、早めに現場や協力会社へ共有しましょう。共有が早いほど、人員の調整や日程の相談に使える時間が増えます。「最新版がどこにあるか」を全員が迷わない状態を作ることが、工程管理の実効性を左右します。
もっとも手軽な方法は、公開されているエクセルのテンプレートを使うことです。日単位・週単位・月単位など期間別のテンプレートが数多く配布されているため、自社の管理スパンに近いものを選び、作業項目を書き換えるところから始められます。
手作業でセルを塗る運用は、日程が変わるたびに塗り直しが必要になります。条件付き書式を使えば、開始日と終了日を入力するだけでバーを自動表示できるため、更新の手間を減らせます。
まず、次のように列を配置します。
作業データが5行目から始まる場合は、バーを表示する範囲を選択し、条件付き書式の「数式を使用して、書式設定するセルを決定」で次の数式を指定します。
=AND(E4>=C5,E4<=D5)
この数式は、「各列の日付が開始日以上かつ終了日以下ならセルを塗りつぶす」という意味です。設定手順は次のとおりです。
予定と実績で2行を用意し、色を変えて上下に並べると、計画とのズレも見える化できます。エクセルの関数や条件付き書式を使った詳しい作成手順は、Excel(エクセル)による工程表の作り方で解説しています。
エクセルは導入しやすい一方で、ローカルファイルや社内サーバーを中心に運用している場合、案件数と関係者が増えるにつれて次の課題が表面化します。
Microsoft 365やExcel Onlineを利用すれば共同編集や外出先からの確認は可能です。ただし、工程変更への追従、図面との紐づけ、案件横断の負荷管理までエクセルだけで行うと、設計や保守が複雑になる場合があります。作成そのものよりも、「更新と共有」に時間を取られている状態が続いているなら、運用方法や管理手段を見直す段階だといえます。
受注のたびに仕様が変わる多品種少量生産や個別受注生産では、当初の計画どおりに進むことのほうが少なくなります。したがって、「精緻な工程表を一度作る」よりも、「変更をすばやく反映して共有できる状態を保つ」ことのほうが重要です。作成の手間が大きい形式は、更新が止まった時点で機能しなくなります。
製造現場では、特急品の割り込みや、外注先からの戻り待ちが日常的に発生します。バーチャート工程表では、こうした待ち時間も1本のバーとして明示しておくと、「なぜこの工程が止まっているのか」が関係者に伝わります。外注工程を工程表から省くと、遅れの原因が現場の問題に見えてしまうため注意が必要です。
バーチャート工程表は本来、進捗の管理には向いていません。それを補う方法として、予定のバーの下に実績のバーを並べる、あるいは日々の到達点を縦線で結ぶ(イナズマ線)といった工夫があります。ズレが見えれば、遅れの早期発見と対策につながりやすくなります。
1枚の工程表で現場を回そうとすると、粒度が合わずに使われなくなります。全体工程表で大枠を、月間工程表で当月の段取りを、週間工程表で現場への具体的な指示を扱うように分けると、計画と現場のズレを小さく保ちやすくなります。
ここまで見てきたバーチャート工程表の課題、すなわち「修正の手間」「最新版の共有」「図面との分断」「属人化」は、いずれも紙やエクセルという手段に起因するものです。工程管理システムを活用すると、バーチャート工程表の見やすさを保ちながら、これらの課題の解消が期待できます。
工程の進捗と図面が別々に管理されていると、確認のたびに探す時間が発生します。両者を紐づけて一元管理できれば、工程表から該当する図面をたどれるようになり、確認の手戻りを減らしやすくなります。
クラウド上で工程を管理すれば、変更した内容はその場で全員の画面に反映されます。工程表を印刷して配り直す必要がなくなり、事務所と現場、外出先のあいだで情報の食い違いが起こりにくくなります。ペーパーレス化にもつながります。
工程の実績がデータとして残れば、次の案件の日数見積もりに活用できます。ベテランの頭のなかにあった「この加工はこれくらいかかる」という感覚を、組織の情報として共有できるようになり、特定の担当者に依存しない体制づくりを進めやすくなります。
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日程と所要期間をシンプルに共有することが主目的であれば、バーチャート工程表が向いています。進捗率、担当者、マイルストーン、作業間の依存関係まで管理したい場合は、ガントチャート工程表が適しています。両者は同じ意味で使われることもあるため、名称ではなく、工程表で管理したい情報を基準に選びましょう。
案件数が少なく、関係者も限られる場合はエクセルでも運用できます。案件が増えて更新と共有に時間がかかっている、最新版が混在している、図面の確認に手間がかかっているといった状況であれば、システムの検討が有効です。
案件の性質によりますが、週次で見直し、日々の実績は都度記入する運用が一般的です。更新が滞ると工程表への信頼が失われ、現場が別の情報源で動き始めてしまうため、更新しやすい仕組みにしておくことが大切です。
バーチャート工程表ではクリティカルパスを読み取れません。作業の依存関係が複雑な案件では、ネットワーク工程表を併用するか、依存関係を設定できる工程管理システムの利用を検討してください。
バーチャート工程表は、縦軸に作業項目、横軸に日程を取るシンプルな工程表です。短時間で作成でき、関係者へ日程を共有する用途では今も有効な手段です。
一方で、作業同士の依存関係やクリティカルパス、人・設備のリソース配分は表現できず、変更が入るたびに手作業での修正が発生します。多品種少量生産のように変更が前提となる現場では、この修正と共有の負担が工程管理そのものを圧迫しかねません。
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